視覚障害者を悩ます鉄道の“点字シール問題” 車両ドアの貼り付け高さバラバラ「統一して」

2021年12月10日 06時00分

山手線の車両に張られた点字シール=JR東日本提供

 目の不自由な鉄道利用者に車両内の位置を知らせるため、ドアの内側に張られている「点字シール」。東京都豊島区の視覚障害者団体が都内の路線を抽出し、床からシール中央までの高さを調べたところ、最大で30センチ近い差があった。乗り慣れない路線で迷った経験がある視覚障害者は少なくなく、「統一して」との声が上がる。(中村真暁)
 「あった。低いわね」。10月上旬、東武東上線の車内。豊島区盲人福祉協会会長の武井悦子さん(66)が、調査に訪れた車両で、点字シールを探すのに手間取っていた。シールには太い黒字と、点字で「10号車 4番ドア」。高さは、武井さんが普段乗っているJRと比べると、手のひらの長さほど下の位置にあった。
 「車両内で、ドアの場所を指定して人との待ち合わせに使うこともある。点字シールの場所が分かりにくいのは不安です」

◆指針に幅、最大28.5センチ差

 協会は9、10月、東武線を中心にJR、東京メトロ、都営線、私鉄の計15路線を調査。73カ所のドアについて、点字シールの場所や形状を確認した。視覚障害者の事故防止がテーマの東武鉄道の社員研修に招かれたことがきっかけだった。
 調査によると、シールが最も高い場所にあったのはJR中央線で165.5センチ。最も低いのは東京メトロ有楽町線、東武東上線の137.0センチで、高低差は28.5センチ。
 なぜ差が生まれるのか。国土交通省はシールの高さについて「140~160センチ程度」と指針を定める。鉄道各社はおおむね「指針に従っている」(JR東日本)としており、指針に幅を持たせていることが背景にあるとみられる。
 同じ路線でも乗り入れがある場合、車両ごとに高さが異なる。東急、西武、東武が乗り入れる東京メトロ有楽町線は東急とメトロとの車両で7センチ、京王が乗り入れている都営新宿線は京王と都営線で13センチの差があった。
 シールの違いは位置だけでなくデザインにも及ぶ。長方形が多いが中には円形も。大きさも縦3.5~7.5センチ、横4.2~8センチとさまざまだった。

◆乗降に支障、転落事故のリスクも

 協会の市原寛一事務局長(54)は「3センチの高さの違いでシールが探せないこともある。車両内の位置が分からなければ降りたい地点に降りられず、階段や改札にもたどり着きにくくなる。ホームで迷えば転落事故にもつながりかねない。シールの位置やデザインを標準化してほしい」と訴える。
 国交省の担当者は、新たな設置指針について「要望があれば検討する」としている。JR東の担当者は「分かりにくいという指摘は真摯しんしに受け止める」と話す。

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