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小川フミオのカー・エッセイ~かつてのセドリック/グロリアの“味”はフーガにあるのか? 日産の高級車について考える

2009年に登場した現行「フーガ」に久しぶりに乗った小川フミオが、かつての「セドリック/グロリア」を思い出しつつ、日産の高級車について考えた。
日産 セドリック グロリア NISSAN 901運動 Y31 FUGA フーガ インフィニティ CEDLIC GROLIA グランツーリスモ シーマ CIMA
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“人間くささ”が溢れたY31セドリック/グロリア

日産がトヨタに追いつけ追い越せ、と言っていた時期は、元気のいいプロダクトがたくさんあった。

代表的な1台は、「セドリック/グロリア」シリーズだ。1960年に初代が登場。そのあと、順調にモデルチェンジを重ね、1975年の4代目(330型)をはじめ、1979年の4代目(430型)、1983年の5代目(Y30型)、そして1987年の6代目(Y31型)にかけて、押しも押されないアイコンとなった。

セドリック/グロリアシリーズの人気を支えていたのは、まさに“元気”だったように思う。消費者にはパワフルなものや見栄えのいいものへの志向が強くあり、それを支える購買力があった時代だ。

とりわけ、ハードトップ・ボディを前面に押しだしたうえ、2.0リッターV型6気筒24バルブエンジンにターボチャージャーを装着し、パワーを売りものにした1987年登場のY31型は、シリーズの歴史を通じてアイコン的なモデルといってもいい。

Y31型セドリックは1987年に登場。写真はスポーツ仕様の「グランツーリスモ」。

ステアリング・ホイールなどはグランツーリスモ専用デザイン。

ハードトップはピラーレス。

2.0リッターV型6気筒ガソリンターボ・エンジン「VG20DET」は、最高出力185psを発揮した。

2.0リッターターボエンジンを搭載したのは「グランツーリスモ」と呼ぶ新設グレード。Bピラーのない軽快さのあるスタイリングをはじめ、バンパー一体型のエアダムやドライビング・ランプなどの装備が目をひいた。

さらに、リアサスペンションがリジッドからセミトレーリングアームを使った独立式になったり、ステアリング形式がボール循環式からラック&ピニオンに変更されたりと、ゼロから設計されたのも大きな特徴だった。

日産は1988年、セドリック/グロリア・シリーズに、ターボの過給電子制御など新技術をてんこ盛りにした「セドリック・シーマ」と「グロリア・シーマ」を設定した。当時の言葉でいうと、シリーズの“イケイケ・ムード”に拍車をかけた。いまでもバブルの象徴として、シーマがメディアに登場するぐらいだ。

ラグジュアリー志向のグレード「ブロアム」。

上級グレードは、オートエアコンやステアリング・ホイールのオーディオ・コントローラー、電動シートなどの快適装備が標準。

当時乗った印象としては、ぜいたくで、かつ速かったという記憶がある。日産が、メーカーとしての地位をワンステップ高めたのは、1989年であると思う。「スカイラインGT-R(R32型)」や「フェアレディZ(Z32型)」、それに日本ではうまくいかなかった「インフィニティQ45」などが登場したからだ。

Y31型セドリック/グロリアシリーズが登場した時期は、ちょうどステッピング・ボードへ足をかけた時だった。だからこそ、乗る人間は、作り手の熱い情熱に触れたような気になったのだ。このときの日産車の魅力はなにかと訊かれたら「人間くささ」と、答えると思う。

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迷走から誕生したフーガ

現在の日産車のなかで、セドリック/グロリア・シリーズのヘリティッジを受け継ぐモデルをさがすと、「フーガ」がある。全長4980mmと、セドリック/グロリア最後のY34系より120mmほど伸びた余裕あるサイズの後輪駆動主体のセダンだ。

日産のプレスティージャスなセダンとしては、「シーマ」もあるが、フーガよりホイールベースが150mmも長い3050mmで、どちらかというと、後席に乗るクルマととらえたほうがいいかもしれない。なので、ドライバーを魅了してきたセドリック/グロリア・シリーズの後継車は、やはりフーガだろう。

シーマのドライブ・トレインは3498ccV型6気筒ガソリンエンジン+モーターのハイブリッド仕様(後輪駆動)のみ。それに対してフーガは、おなじハイブリッドユニット以外に、3696ccV型6気筒ガソリン・エンジンと2495ccV型6気筒ガソリン・エンジンが用意されている。価格はもっともベーシックなモデルを比較すると、フーガのほうがシーマより320万円以上も安い。シーマは特別なモデルなのだ。

主要諸元(フーガ 370GT Type S)全長×全幅×全高:4980×1845×1500mm、ホイールベース2900mm、車両重量1770kg、乗車定員5名、エンジン3696ccV型6気筒DOHC(333ps/7000rpm、363Nm/5200rpm)、トランスミッション7AT、駆動方式RWD、タイヤサイズ245/40R20、価格595万5400円。

ボディは全長×全幅×全高:4980×1845×1500mm。ボディカラーはダークメタルグレー。

物理的なスウィッチがならぶインパネまわり。

メーターはオーソドックスなアナログタイプ。インフォメーションディスプレイはモノクロ。

先代フーガは、2004年にセドリック/グロリア・シリーズの後継モデルという位置づけで販売開始された。当時、「セドリック/グロリア・シリーズが従来もっていたイメージを一新するための名称変更」と、説明していた。

でも考えてみるに、“従来持っていたイメージ”は、クルマ好きにとって悪くないものだったように思う。シリーズ後期のY33型やY34型に問題があるとしたら、それまでシリーズが育んできた、乗ることを楽しむクルマという存在理由を、メーカーじしんが捨て去ったところではないだろうか。

1991年登場のY32型セドリック。

1995年登場のY33型セドリック。

Y32型で頂点に達したといえる、“大型セダンであるいっぽう、走りが楽しい”というイメージをずっと大事にしておいてほしかった。そう思うのは、私だけではないだろう。

1991年に登場した丸型4灯式ヘッドランプを採用したY32型は、無敵と思われた競合、トヨタ「クラウン」を販売台数でしのいだことすらある。それが、やがて迷走するようになり、最後期モデルでは、誰に乗ってほしいと思って作っているのかが分からないモデルに成り下がってしまった。

Y34型のイメージは透明。ただし悪い意味で。トヨタのプロダクトは上手な広告戦略により、ターゲット層が誰にでも明確にわかった。それに対して、日産は不明瞭。

はたして、主婦たちは「おたくのご主人なんでこのクルマ買ったの?」と、隣り近所から訊ねられるのを忌み嫌い、セドリック/グロリア・シリーズを回避した、とは当時、私が聞いたライバル・メーカーの高級車を担当する広告代理店の見解だ。

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走りの楽しさをもっと強調してほしい

いまのフーガは乗るとけっして悪いクルマではない。

2代目にフルモデルチェンジしたのが2009年だから、もはや10年選手。しかし、さまざまな電子制御技術の力を借りながら、すなおなステアリングと、高いコーナリング性能を実現している。エンジン・ルームからの音などといった遮音性はいま一歩で、時代を感じさせるものの、全体としては、まだまだいけそうだ。

おそらく日産では、このままのかたちでフーガをもうすこし延命させ、EV時代が到来したときに、まったく異なるモデルへとバトンを渡そうと思っているのでは? と、想像できる。

後輪操舵システム「4WAS」を搭載。

搭載するエンジンは3696ccV型6気筒DOHC(333ps/7000rpm、363Nm/5200rpm)。

となると、セドリック/グロリア・シリーズが守ってきた、ガソリン・エンジンをブン回して走るという、自動車の原初的な楽しみが味わえるのは、いまの後輪駆動のフーガが最後になるかもしれない。

「フーガは走りが楽しめるクルマだ!」と、メーカーがより強く発信すれば、セドリック/グロリア・シリーズが好きだったファンは、もういちど振り向くような気もする。

最後に私の個人的な印象を記すと、「スカイライン400R」より「フーガ370GT」のほうが操縦が楽しめた。

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文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)※FUGA